「公正証書を作るなら、相手が約束を守らなかったときに、裁判をせず強制執行できるようにしたい」

離婚に伴う財産分与や慰謝料、住宅ローンの支払い、立替金などについて、公正証書を作成する際、このようなご相談は少なくありません。

特に難しいのが、

「まだ発生していない将来の債権について、強制執行認諾を付けることはできるの?」

という問題です。

結論からいうと、「将来債権だから一切強制執行できない」というわけではありません。

重要なのは、将来発生する債権について、

①いくらなのか
②どのような場合に発生するのか
③いつ支払うのか
④どのように支払うのか
⑤支払わなかった場合にどうするのか

などを、できるだけ具体的に公正証書へ定めておくことです。

🔵 そもそも「強制執行認諾」とは?

公正証書には、一定の金銭債務について、

「支払わなかった場合には、直ちに強制執行を受けても異議がない」

という内容を記載することができます。

これが、一般にいう「強制執行認諾文言」です。

例えば、

「甲は、乙に対し、金500万円を令和10年3月31日までに支払う。甲は、本債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した。」

というような条項です。

このような強制執行認諾文言が付された公正証書は、一定の要件を満たすことで、裁判を経ずに強制執行へ進むことができます。

⭐ ただし、ここが重要です

「公正証書を作った」=「何でも強制執行できる」

ではありません。

強制執行の対象となる金銭債務について、内容が明確になっていることが重要です。

🟠 「将来債権だから強制執行できない」は正確ではない

ここは非常に誤解されやすいところです。

例えば、

「今後、妻が立替えた金額について、夫が返済する」

という約束。

これは、契約を作った時点では、妻が実際にいくら立替えるのか分かりません。

100万円かもしれません。

300万円かもしれません。

あるいは、夫がきちんと支払えば、妻が一度も立替えないかもしれません。

このような場合、

「妻が将来立替えた金額を夫が返済する」

というだけでは、強制執行をする段階で問題が生じる可能性があります。

しかし、

「将来発生する債権だから絶対に強制執行できない」

ということでもありません。

将来発生する請求権についても、基本となる法律関係が明確で、その債権の内容や金額が一定の基準によって明確になる場合には、執行証書の対象となり得ます。

つまり、

❌ 将来債権だからダメ

ではなく、

⭕ 将来発生する債権を、どこまで具体的に特定できるか(許容範囲をどこまでもつか)

がポイントになります。

🔴 特に問題になるのが「住宅ローンの立替払い」

実務上、非常に分かりやすい例が離婚後の住宅ローンの立替払いです。

例えば、

  • 夫が住宅ローンを支払う
  • 妻は住宅に居住する
  • 夫が住宅ローンを支払わなかった場合、妻が立替えて支払う
  • 妻が立替えた金額は、後日夫が妻へ返済する

というケースです。

この場合、妻が将来立替える金額は、現在の時点では確定していません。

そこで、

「妻が立替えた住宅ローンは、夫が返済する。」

だけではなく、将来発生する立替金返還債務をできるだけ具体的に設計することが重要になります。

🟢 強制執行まで考えるなら「5つ」を具体的にする

将来の立替金について公正証書を作成する場合、私は特に次の項目を確認することが重要だと考えます。

項目定める内容
💰 金額いくら支払うのか・算定方法
📅 発生条件どんな場合に返済義務が発生するのか
⏰ 弁済期いつまでに支払うのか
🏦 弁済方法一括・分割・振込等
⚠️ 遅延損害金支払わなかった場合の利率・起算日

さらに、

📄 立替払いを証明する資料

まで考えておくと、より実務的です。

💰 ①「金額」をできるだけ明確にする

最も重要なポイントの一つです。

例えば、

「夫は妻に対し、妻が立替えた金額を支払う。」

というだけでは、実際にいくらの債務が発生しているのかが問題になります。

そこで、

「妻が夫に代わって金融機関に支払った住宅ローンの金額いくら」(要は許容範囲の立替金)

など、金額の算定基準を明確にします。

さらに、

「立替金の総額は500万円とする。」

など、上限を設けることも考えられます。

ただし、

⚠️ 「上限を決めれば、必ずその上限額をそのまま強制執行できる」という意味ではありません。

実際に発生した債務額をどのように確定するのか、契約全体の設計が重要です。

📅 ②「いつからいつまで」を明確にする

将来の立替払いでは、期間も非常に重要です。

例えば住宅ローンであれば、

「本公正証書作成日から住宅ローン完済日まで」

とすることが考えられます。

これによって、

「公正証書を作成する前の立替金も対象なの?」

「完済後の支払いも対象なの?」

といった問題を防ぎやすくなります。

🔵 ③「どんな場合に返済義務が発生するのか」を明確にする

例えば、

夫が住宅ローンを支払わなかった場合

なのか、

夫が住宅ローンの支払いを遅滞した場合

なのか、

妻が金融機関に代わって支払った場合

なのか。

この違いは重要です。

特に、

「妻が実際に金融機関へ支払ったこと」(立替金全額)

を返済義務発生の条件にするのであれば、その事実を後から証明できるようにしておく必要があります。

🏦 ④ 弁済方法・弁済期を決める

「返済する」とだけ書くのではなく、

いつまでに、どのように返済するのか

まで定めることが重要です。

例えば、

「甲は、乙が立替えた金額を、住宅ローン完済日の翌月末日までに、乙の指定する金融機関口座へ振り込んで支払う。」

というようにします。

分割払いであれば、

「毎月末日限り10万円ずつ支払う。」

など、具体的に定めます。

📌 ここがポイント

「後で返す」

ではなく、

「いつまでに返す」

まで決めることが重要です。

⚠️ ⑤ 利息・遅延損害金も決めておく

さらに重要なのが、支払わなかった場合の遅延損害金です。

例えば、

「甲が支払期限までに支払わないときは、支払期限の翌日から完済に至るまで、年○%の割合による遅延損害金を支払う。」

という条項です。

これによって、

元金だけではなく、支払遅延によって発生する遅延損害金

についても契約上明確にすることができます。

🟡 「証拠」を残すことも非常に重要

将来債権の場合、強制執行以前に、

「本当にその債権が発生したのか?」

という問題が起きることがあります。

例えば妻が住宅ローンを立替えた場合、

  • 通帳
  • 振込明細
  • 金融機関の返済記録
  • 領収書
  • 返済予定表

などを保管しておくことが重要です。

つまり、

「妻が実際にいくら立替えたのか」

を後から確認できる状態にしておくわけです。

🔴 条件付きの債権では「条件が発生したこと」も問題になる

将来債権で特に注意したいのが、

「条件が発生したら支払う」

という契約です。

例えば、

「夫が住宅ローンを支払わなかった場合、妻が立替え、その立替金を夫が返済する。」

という契約。

ここでは、

夫が支払わなかったこと

と、

妻が実際に立替えたこと

が重要になります。

そのため、強制執行の段階で、

「その条件が本当に発生したのか?」

を証明する必要が生じる場合があります。

ここは、単に「強制執行認諾」という一文を入れて終わりではないところです。

🟣 「強制執行認諾」まで含めた全体設計が重要

公正証書を作成する際には、

STEP①

どんな債務なのかを決める

STEP②

金額または金額の算定方法を決める

STEP③

債務が発生する条件を決める

STEP④

弁済期限・弁済方法を決める

STEP⑤

遅延損害金を決める

STEP⑥

証拠資料を残せるようにする

STEP⑦

強制執行認諾文言を入れる

という順番で考えると分かりやすいです。

📊 「曖昧な契約」と「具体的な契約」の違い

曖昧な定め具体的な定め
必要な費用を支払う住宅ローンの立替金を支払う
立替えた分を返す妻が金融機関へ実際に支払った金額を返す
後で返済する住宅ローン完済日の翌月末日までに返済
適切な利息を付ける年○%の遅延損害金
必要に応じて支払う○○を原因として発生した立替金
約束を守らなければ強制執行対象となる金銭債務について強制執行認諾

公正証書では「具体性」が非常に重要です。

🏠 住宅ローンの立替払いでは特に注意

離婚後も住宅ローンが残る住宅について、

「夫がローンを支払う」

という合意だけでは、将来問題が起きた場合に十分ではないことがあります。

例えば、

夫が支払わない

妻が住宅を守るため立替える

妻が金融機関へ支払う

夫が妻へ返済する

という流れを想定するのであれば、

「立替えた場合の返還義務」まで公正証書で具体的に定める

ことが重要です。

さらに、

「いつまでの立替払いを対象にするのか」

「いくらまでなのか」

「立替えた場合、いつ返済するのか」

「返済しなかった場合の遅延損害金はどうするのか」

まで決めておくことが重要になります。

🚨 よくある誤解

❌「公正証書なら全部差し押さえできる」

これは違います。

❌「強制執行認諾を書けば何でも強制執行できる」

これも違います。

❌「将来債権は絶対に強制執行できない」

これも正確ではありません。

⭕ 重要なのは「強制執行の対象となる債権をどこまで具体的に定められるか」

ということです。

✨ まとめ

公正証書を作成する目的が、

「相手が約束を守らなかった場合、できるだけスムーズに強制執行まで進めたい」

ということであれば、単に強制執行認諾文言を入れるだけでは不十分です。

特に将来発生する債権については、

💰 金額

📅 発生条件

⏰ 弁済期限

🏦 弁済方法

⚠️ 利息・遅延損害金

📄 証拠資料

を具体的に整理することが重要です。

そして最後に、

「強制執行認諾文言」

を組み合わせます。

「将来債権だから強制執行できない」のではなく、将来発生する債権について、強制執行の対象となる金銭債権としてどこまで具体的に設計できるかがポイントです。

特に、離婚に伴う住宅ローンの立替払い、財産分与の分割払い、慰謝料、解決金などでは、公正証書を作成する段階から「将来、相手が支払わなかった場合」を想定して条項を作ることが大切です。

📝 立神法務事務所では、公正証書の内容を一緒に整理します

公正証書は、単に当事者間の約束を書面にするだけではありません。

「もし将来、相手が約束を守らなかったらどうするのか」

というところまで考えて、支払条件や期限、遅延損害金、証拠の残し方などを整理しておくことが重要です。

特に、離婚に伴う住宅ローン、財産分与、慰謝料、立替払いなどは、将来の事情まで考慮して公正証書の内容を検討する必要があります。

立神法務事務所では、当事者間で決まっている内容をお聞きしたうえで、公正証書作成に向けた契約内容の整理・文案作成をサポートしています。

「公正証書を作りたいけれど、どこまで決めておけばいいのか分からない」

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この記事を書いた人

立神 彰吾

相続・遺言・生前対策などの法務相談を中心に、これまで累計1万件以上のご相談に対応。
立神法務事務所では、“相談しやすさ”を何より大切にしたサポートを心がけています。専門用語を並べるのではなく、「どうしてそうなるのか」がわかるよう背景や理由も交えて説明。
メリット・デメリットを丁寧にお伝えし、 お客様と一緒に、最適な方法を探していきます。

保有資格
行政書士
(特定行政書士・申請取次行政書士)
宅地建物取引士資格(未登録)
書籍
「最強の一問一答 
行政手続法・行政不服審査法編」
「最強の一問一答 基礎知識編
(行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法)」