「遺言書を作っておけば、相続は全部スムーズに終わる」

このように考えている方は少なくありません。

もちろん、遺言書は相続手続きを円滑に進めるための非常に重要なものです。

しかし、遺言書がある=相続手続きがすべて自動的に終わるというわけではありません。

実際には、

  • 遺言書に書かれていない財産がある
  • 不動産の名義変更が必要
  • 預貯金の解約・名義変更が必要
  • 遺言執行者が必要になる
  • 相続人の協力が必要になる場合がある
  • 遺言書を作った後に財産状況が変わっている

など、遺言書があっても対応しなければならないことがあります。

今回は、意外と知られていない「遺言書の限界」について、具体的に見ていきます。

🟦 そもそも、遺言書があると何が変わる?

遺言書の大きなメリットは、亡くなった方の財産を「誰に、どのように引き継がせたいのか」を明確にしておけることです。

例えば、

「長男○○に自宅を相続させる」

「妻○○に預貯金その他一切の財産を相続させる」

などと指定することができます。

遺言書がない場合には、原則として相続人全員で遺産分割について話し合うことになります。

一方、適切な遺言書があれば、その話し合いを大幅に減らせる可能性があります。

では、遺言書があれば何もしなくていいのでしょうか?

ここが大きな誤解です。

遺言書は「相続手続きを自動的に完了させる書類」ではありません。

遺言書はあくまでも、亡くなった方の意思を示すものです。

その後には、実際の財産を確認し、それぞれの名義変更や解約などの手続きを行う必要があります。

🟨 遺言書があっても必要になる主な手続き

例えば、次のような財産があったとします。

財産遺言書があっても必要になること
🏠 不動産相続による所有権移転登記
💰 預貯金金融機関での払戻し・名義変更等
🚗 自動車名義変更など
📈 株式・投資信託証券会社等での承継手続き
🏦 その他の金融資産各金融機関等での手続き
📄 遺言に記載されていない財産別途、相続方法を検討する必要

つまり、

「遺言書がある」ことと「相続手続きが完了している」ことは別なのです。

🟥 ケース① 遺言書に書いていない財産が見つかった

これは非常に重要なポイントです。

例えば、遺言書に、

「自宅の土地・建物を長男に相続させる」

と書いてあったとします。

ところが、亡くなった後に、

  • 別の土地
  • 銀行の定期預金
  • ネット銀行の口座
  • 証券口座
  • 貴金属
  • 貸金庫

などが見つかったとします。

これらが遺言書の対象になっていなければ、その財産について別途対応が必要になる可能性があります。

「遺言書を書いたから全部終わり」ではないのです。

🟦 ケース② 「全財産を○○に相続させる」と書いてあれば大丈夫?

では、

「私の有する一切の財産を長男○○に相続させる。」

という遺言ならどうでしょうか。

このような包括的な内容の遺言であれば、個々の財産をすべて列挙していなくても、幅広い財産を対象とすることができます。

ただし、それでも実際の手続きが不要になるわけではありません。

例えば銀行であれば、

  1. 被相続人が亡くなったことの確認
  2. 遺言書の確認
  3. 必要書類の提出
  4. 相続人・受遺者等の確認
  5. 預金の払戻し等

といった手続きが必要になります。

金融機関によって必要書類や取扱いが異なることもあります。

🟧 ケース③ 不動産は「遺言書だけ」では名義が変わらない

不動産についても同じです。

遺言書に、

「佐倉市○○の土地・建物を長男に相続させる」

と書いてあったとしても、それだけで登記簿上の名義が自動的に変わるわけではありません。

相続による所有権移転登記を行う必要があります。

つまり、

遺言書 → 名義変更の原因となる

のであって、

遺言書を書いた → 自動的に名義変更される

ではありません。

ここは、遺言を作る際にぜひ知っておきたいポイントです。

🟪 ケース④ 遺言書を作った後に財産が変わった

これも意外と見落とされます。

例えば、70歳のときに、

「長男に自宅を相続させる」

という遺言書を作ったとします。

その後、80歳になって自宅を売却し、別の家に引っ越したとします。

すると、当然ながら当初の遺言書を作ったときと財産状況が変わっています。

また、

  • 預金額が大きく変わった
  • 不動産を売却した
  • 新たに不動産を購入した
  • 子どもが亡くなった
  • 離婚・再婚した
  • 孫が生まれた

など、家族関係や財産状況が変化することもあります。

そのため、遺言書は一度作れば一生見直さなくていいものではありません。

🟨 「昔作った遺言書」が現在の家族に合っているとは限らない

例えば、10年前に、

「長男に自宅を相続させる」

という遺言を作ったとします。

しかし10年後には、

  • 長男が遠方に住んでいる
  • 長女が介護をしている
  • 自宅を売却する予定になった
  • 財産の大部分が預貯金になった

という状況になっているかもしれません。

この場合、

「10年前に作った遺言書だから大丈夫」

とは限りません。

遺言書は、家族や財産の状況が変わったときに、内容を確認することが大切です。

🟥 もう一つ重要なのが「遺留分」

遺言書を作る際には、遺留分についても注意が必要です。

例えば、

「全財産を長男に相続させる」

という遺言を作ったとしても、一定の相続人には遺留分が認められる場合があります。

そのため、

「遺言書を書けば、誰にどんな内容でも自由に財産を渡せる」

と考えるのは危険です。

特に、

  • 子どもが複数いる
  • 特定の子だけに多く財産を渡したい
  • 長男・長女の一方に自宅を渡したい
  • 再婚している
  • 前婚の子どもがいる

といった場合には、遺留分も含めて検討する必要があります。

🟦 遺言書は「ゴール」ではなく「相続手続きのスタート」

ここが今回、一番お伝えしたいところです。

遺言書を作ることは非常に大切です。

しかし、

遺言書を作ること=相続対策がすべて完了

ではありません。

むしろ、遺言書を作った後に、

「実際にこの内容で相続手続きができるのか?」

という視点で確認しておくことが重要です。

遺言作成時に確認しておきたいこと

チェック項目確認するポイント
🏠 不動産現在の名義・所在地・内容
💰 預貯金銀行・支店・口座の把握
📈 株式等証券会社・金融商品の確認
👨‍👩‍👧‍👦 相続人現在の家族関係
📜 遺言内容財産の分け方が適切か
⚖️ 遺留分問題が生じる可能性がないか
🔄 見直し家族・財産の変化に応じて確認

🟩 「遺言書があるから安心」ではなく「遺言書の内容が今も適切か」

遺言書は、相続争いを防ぎ、残された家族の手続きをスムーズにするための非常に有効な方法です。

ただし、その効果を十分に発揮させるためには、

「誰に渡すか」だけではなく、「実際に相続が発生したときに手続きできる内容になっているか」

まで考えておくことが重要です。

そして、遺言書を作った後も、家族関係や財産状況が変わったときには、一度内容を見直してみることをおすすめします。

📝 まとめ

「遺言書を書いたから、相続はもう大丈夫。」

そう思ってしまいがちですが、実際にはそうとは限りません。

遺言書があっても、

① 遺言書に記載されていない財産がある
② 不動産や預貯金などの実際の手続きが必要
③ 遺言書作成後に財産や家族関係が変わっている
④ 遺留分など別の問題が生じる可能性がある

など、確認すべきことがあります。

だからこそ、遺言書は単に「書けば終わり」ではなく、残された家族が実際に手続きをするときまで考えて作ることが大切です。

遺言書を作ろうと考えている方は、財産の内容や家族関係を整理したうえで、ご自身の希望がきちんと反映される内容になっているか確認してみてください。

リンク先:段階で安心!予備的遺言を使った相続トラブル回避の具体例
     相続登記を見据えた遺言書の書き方

当事務所では、お客様のご家族の状況や財産内容、将来のご希望などを丁寧にお伺いし、それぞれのご家庭に合った遺言書の作成をサポートしております。「遺言書を作った方がよいのかわからない」「自分の希望をどのように遺言書に残せばよいかわからない」といったご相談にも対応しております。
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この記事を書いた人

立神 彰吾

相続・遺言・生前対策などの法務相談を中心に、これまで累計1万件以上のご相談に対応。
立神法務事務所では、“相談しやすさ”を何より大切にしたサポートを心がけています。専門用語を並べるのではなく、「どうしてそうなるのか」がわかるよう背景や理由も交えて説明。
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保有資格
行政書士
(特定行政書士・申請取次行政書士)
宅地建物取引士資格(未登録)
書籍
「最強の一問一答 
行政手続法・行政不服審査法編」
「最強の一問一答 基礎知識編
(行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法)」