家族信託を設計する際には、「契約時に把握している財産を信託する」だけで十分なのかという問題があります。

実際には、家族信託の契約を作成した後になって、

  • 別の預金口座が見つかった
  • 信託財産に入れる予定だった資金が追加で発生した
  • 不動産を売却した代金が発生した
  • 土地に付随する私道持分が見つかった
  • 道路部分について共有持分を持っていたことが分かった
  • 建物に関連する共有持分や敷地利用権が判明した

といったことがあります。

そこで重要になるのが、「追加信託」に関する条項です。

今回は、家族信託契約書に追加信託条項を設ける場合の考え方について、特に後から判明した私道持分・道路部分などへの対応を中心に解説します。

1.そもそも「追加信託」とは?

追加信託とは、簡単にいうと、

家族信託契約を締結した後に、当初の信託財産に新たな財産を加えること

です。

例えば、最初の契約で、

  • 自宅
  • 1,000万円の預金

を信託財産としていたとします。

その後、

「別の銀行に500万円の預金があることが分かった」

という場合、その500万円について追加信託を行うことが考えられます。

追加信託のイメージ

時期財産取扱い
信託契約時自宅当初信託財産
信託契約時1,000万円の預金当初信託財産
契約後別口座の500万円追加信託
契約後売却代金300万円信託財産として管理
契約後私道持分が判明必要な手続をして追加信託

このように、契約時にすべての財産を完璧に把握できなかった場合に備える仕組みとして、追加信託条項は重要です。

2.なぜ追加信託の条項を入れておくのか?

家族信託では、契約書を作成する段階で信託財産を特定します。

しかし、財産調査をしていると、意外なところから財産が出てくることがあります。

特に不動産では注意が必要です。

例えば、

「自宅の土地と建物を信託すれば大丈夫」

と思っていたところ、登記記録を詳しく確認すると、

別筆の私道持分を所有していた

というケースです。

あるいは、

  • 道路部分の共有持分
  • 私道持分
  • 敷地利用権
  • 共用部分の持分
  • その他不動産に付随する権利

などが判明することがあります。

こうした財産について契約書に何も規定がないと、後から追加する際に改めて委託者と受託者との間で追加信託の意思確認をする必要が生じます。

そこで、契約書の段階から追加信託について定めておくわけです。

3.今回のような「道路部分・私道持分」の問題

特に注意したいのが、土地に付随する道路部分や私道持分です。

例えば、次のようなケースです。

ケース①

自宅の土地

「○番○」を信託財産として契約。

ところが後から登記を確認すると、

「○番○-2」の私道持分も所有していた。

ケース②

自宅敷地だけを信託するつもりだったが、実際には、

  • 私道の共有持分
  • 道路部分の共有持分
  • 敷地利用権

などが存在していた。

このような場合に備えて、

「本契約締結時に信託財産目録に記載されていなかった不動産、私道持分、共有持分、共用部分の持分、敷地利用権その他当該不動産に附随し又はこれと一体として利用される権利」

について追加信託できる旨を規定しておくことが考えられます。

4.「後から見つかったら自動的に信託財産になる」としてはいけない

ここは非常に重要です。

追加信託条項を入れたからといって、

「後から財産が見つかったら、当然に信託財産になる」

と考えるのは適切ではありません。

特に不動産については注意が必要です。

契約書に、

「後から判明した不動産も信託財産とする」

と書いてあったとしても、実際にその不動産について信託財産として扱うのであれば、財産の性質に応じた必要な手続を行う必要があります。

不動産であれば、信託登記等の手続が問題になります。

したがって、条文としては、

「後から判明した財産についても追加信託することができる」

としつつ、

実際の追加信託については、必要な名義変更・信託登記その他の手続を行う

という構成が実務上分かりやすいでしょう。

5.金銭の追加信託は比較的シンプルにできる

追加信託の中でも、金銭については比較的簡単な仕組みにすることができます。

例えば、

委託者が受託者指定の銀行口座へ振り込む

という方法です。

そして、

その振込みをもって追加信託契約が成立したものとする

という条項を設けます。

これなら、毎回、

「追加信託契約書」

を別途作成する必要性を減らすことができます。

6.金銭の追加信託の流れ

例えば、信託契約後に委託者が300万円を追加したい場合です。

① 委託者が追加信託する意思を持つ

② 受託者指定の信託財産管理用口座へ300万円を振り込む

③ 振込みによって追加信託が成立

④ 受託者が追加信託を受けた旨を書面で交付

という流れにできます。

金銭追加信託のメリット

項目内容
手続振込みを基本とする
契約書毎回作成する手間を減らせる
記録振込記録が残る
管理信託財産として管理しやすい
実務継続的な追加に向いている

ただし、「何でも振り込めば信託財産になる」という意味ではありません。

あくまで契約書に定めた追加信託の仕組みに従って行うことが重要です。

7.なぜ「委託者が追加信託の意思をもって振り込む」としたのか

追加信託条項を作る際には、

「振込みの事実をもって追加信託契約の成立とみなす」

という書き方もできます。

ただ、より丁寧にするなら、

「委託者が追加信託の意思をもって当該口座へ振込みを行った時点で」

という要素を入れておく方法があります。

単純に「振込みがあった」という事実だけではなく、

「この振込みは信託財産として追加するためのものだった」

という意思を明確にするためです。

8.金銭以外の財産は、別の考え方が必要

一方、不動産などの金銭以外の財産は、単純に振り込むというわけにはいきません。

例えば、

  • 土地
  • 建物
  • 私道持分
  • 共有持分

などです。

この場合は、

「この財産を信託財産に追加する」

という委託者・受託者双方の確認を行い、財産の種類に応じた必要な手続を行う必要があります。

特に不動産の場合は、信託登記を含めた登記手続が重要になります。

9.追加信託条項のおすすめの考え方

今回のような目的であれば、条文を大きく、

【第1段階】

追加信託できる財産の範囲を広く規定する

【第2段階】

金銭については振込みによる簡便な追加信託を認める

【第3段階】

不動産その他の財産については必要な手続を行う

という3段階に分けて考えると分かりやすくなります。

10.実務で使いやすい追加信託条項

今回の目的であれば、次のような条文が使いやすいでしょう。

第○条(追加信託)

1 委託者は、本件信託財産に、金銭(本信託及び追加信託を受けた金銭、当該金銭の運用による利益、信託財産の売却代金その他これらに類する金銭を含む。)その他の財産を追加信託することができるものとする。
 なお、本契約締結時に信託財産目録に記載されていなかった不動産、私道持分、共有持分、共用部分の持分、敷地利用権その他当該不動産に附随し、又はこれと一体として利用される権利が後日判明した場合には、委託者は、当該財産についても、本契約に基づき追加信託することができるものとする。

2 前項のうち金銭の追加信託をする場合、委託者は、受託者が指定する信託財産管理用の銀行口座への振込みその他受託者が認める方法により追加信託を行うものとし、委託者が追加信託の意思をもって当該口座へ振込みを行った時点で、当該金銭についての追加信託契約が成立したものとする。

3 受託者は、前項による追加信託が成立した場合には、速やかに、追加信託を受けた旨及びその金額を記載した書面を委託者に交付するものとする。

4 第1項のうち金銭以外の財産を追加信託する場合、委託者及び受託者は、当該財産を信託財産として追加することを確認した上で、当該財産の性質に応じ、必要な名義変更、信託登記、登録その他の手続を行うものとする。

11.この条項で「できること」と「できないこと」

ここを整理しておくことも重要です。

内容この条項で対応
後から判明した預金
追加で信託する金銭
信託財産の売却代金等
後から判明した私道持分
道路部分の共有持分
その他の共有持分
共用部分の持分
敷地利用権
不動産の追加信託
不動産の信託登記別途必要な手続
「後から判明したら自動的に信託財産になる」という処理△・避ける

ポイントは、追加信託条項は「後から財産を信託に入れるための契約上の土台」を作るものだということです。

12.特に不動産は「契約書に書いたから終わり」ではない

家族信託で不動産を扱う場合、ここは非常に重要です。

例えば、

「私道持分も追加信託できる」

と契約書に書いていたとします。

その後、実際に私道持分が見つかった場合、

① その私道持分が誰の所有なのか確認

② どのような権利なのか確認

③ 追加信託することを委託者・受託者で確認

④ 必要な登記手続を行う

というように、実際の財産関係を確認して処理する必要があります。

特に道路については、単純な「道路=信託財産」という考え方ではなく、登記上どのような権利として存在しているのかを確認することが大切です。

13.「私道持分」を条文に入れる意味

では、なぜわざわざ、

「不動産」

だけではなく、

「私道持分、共有持分、共用部分の持分、敷地利用権」

などと具体的に列挙するのでしょうか。

これは、信託財産の拾い漏れを防ぐためです。

例えば自宅の土地だけを見ていると、

「自宅の土地はこの土地だけ」

と思ってしまいます。

しかし、実際には別筆の土地について共有持分を所有していることがあります。

特に、

自宅への出入りに利用する私道

などは、実際の生活上は自宅敷地と一体的に利用していても、登記上は別の土地になっていることがあります。

そのため、

「当該不動産に附随し又はこれと一体として利用される権利」

まで拾うようにしておくことには実務上の意味があります。

14.家族信託では「契約時の財産調査」も重要

もっとも、追加信託条項を入れておけば財産調査が不要になるわけではありません。

むしろ、

契約時にできる限り財産を正確に把握する

ことが基本です。

追加信託条項は、

「調査をしなくても大丈夫にする条項」

ではありません。

あくまで、

「調査をしても後から新たな財産が判明する可能性があるため、その場合に備える条項」

と考えるべきです。

15.家族信託の契約書は「その後」まで考えて作る

家族信託では、

「今ある財産をどうするか」

だけを考えて契約書を作ってしまいがちです。

しかし、実際には信託契約後も、

  • 財産が増える
  • 預金が移動する
  • 不動産を売却する
  • 売却代金が発生する
  • 新しい財産が見つかる
  • 共有持分などが判明する

といったことがあります。

そのため、

「契約時」

だけではなく、

「契約後に何が起こるか」

まで想定して条項を作ることが重要です。

まとめ|追加信託条項は「後から判明する財産」への備え

家族信託の追加信託条項は、単に「預金を追加できるようにするため」のものではありません。

特に不動産を信託する場合には、

後から判明した私道持分・道路部分の共有持分・その他の不動産に付随する権利などを、必要に応じて追加信託できるようにしておく

という意味でも重要です。

ただし、

「追加信託できる」と契約書に書いてあることと、「実際に信託財産になった」ことは同じではありません。

金銭については振込みによる追加信託という簡便な方法を設けることができますが、不動産などについては、追加信託の合意に加えて、財産の性質に応じた名義変更・信託登記等の手続が必要になります。

家族信託の契約書を作成するときには、契約時の財産だけでなく、契約後に財産が増えたり、後から権利が判明したりするケースまで想定して条項を設計することが大切です。

🟢 「今ある財産」だけでなく、「後から見つかる財産」まで考えておく。
これが、実務的に使いやすい家族信託契約書を作るうえで重要なポイントです。

※家族信託では、財産の種類や登記関係によって必要な手続が異なります。特に不動産・私道持分・共有持分等を追加信託する場合には、個別の権利関係を確認したうえで手続きを行う必要があります。

リンク先:失敗しない家族信託契約|注意すべき落とし穴7つ
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この記事を書いた人

立神 彰吾

相続・遺言・生前対策などの法務相談を中心に、これまで累計1万件以上のご相談に対応。
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