近年、証券のデジタル化が進み、株式や債券、投資信託などが紙ではなく、電子的に管理されることが一般的になってきました。しかし、これに伴い、相続の際に新たな課題が浮上しています。特に、遺族がデジタル化された証券や暗号資産の存在に気づかないケースが増加しています。この「見えない財産」の相続は、今後さらに重要なテーマとなるでしょう。

この記事では、証券のデジタル化がもたらす相続における課題と、その解決策について解説します。

1. デジタル証券と見えない財産の問題

従来の紙ベースの証券は、物理的に手元に残るため、遺族が相続時に気づきやすいという特徴がありました。しかし、証券がデジタル化されることで、遺族がその存在を把握しづらくなり、見落とされるリスクが高まっています。

  • 電子化された証券
    株式や投資信託は、証券会社のオンラインシステムで管理されることが多く、紙の証券を受け取ることはほとんどなくなっています。被相続人が証券会社の口座情報を共有していない場合、遺族がこれらの財産を発見するのが困難になります。
  • 暗号資産の増加
    暗号資産(仮想通貨)は、その特性上、特に相続において難しい問題を引き起こしています。暗号資産はブロックチェーン技術を利用しており、秘密鍵を持っていなければアクセスできません。そのため、遺族が秘密鍵の存在を知らなければ、暗号資産は事実上取り戻すことができなくなってしまいます。

2. デジタル資産を相続する際の主な課題

デジタル化された証券や暗号資産を相続する際には、いくつかの特有の課題があります。

  • 資産の所在を特定する困難さ
    デジタル証券や暗号資産の最大の問題は、物理的な形を持たないため、遺族が資産の存在に気づかないことです。証券口座や暗号資産のウォレットが見えないままでは、相続手続きが進まず、結果的に資産が無視される可能性があります。
  • アクセス権限の欠如
    電子化された証券や暗号資産は、パスワードや秘密鍵によって管理されています。遺族がこれらのアクセス情報を知らなければ、証券や暗号資産にアクセスすることは不可能です。特に暗号資産の場合、一度秘密鍵が失われると資産にアクセスする手段がなくなります。
  • デジタル遺産の法的な扱い
    暗号資産は比較的新しい概念であり、法的な扱いが明確でないことが多いです。これにより、相続手続きにおいても混乱が生じることが少なくありません。特に国際的に取引される暗号資産は、相続税の計算や相続のルールが国ごとに異なるため、さらなる複雑さが加わります。

3. 見えないデジタル財産を確実に相続するための解決策

デジタル資産の相続における課題を解決するためには、いくつかの対策を事前に講じることが重要です。これにより、遺族が資産の存在を把握し、スムーズに相続手続きを進めることが可能になります。

  • 資産リストの作成と共有
    被相続人が生前に、デジタル証券や暗号資産のリストを作成し、信頼できる人に共有しておくことが非常に重要です。これには、証券口座や暗号資産ウォレットの情報、アクセスに必要なパスワードや秘密鍵を含めるべきです。また、これらの情報は、紙やデジタル形式で安全に保管し、遺言書や信託の中で言及することも一つの方法です。
  • 専門家の助けを借りる
    デジタル資産の相続には、専門知識が求められることが多いため、行政書士や司法書士、さらにはデジタル資産に詳しい弁護士に相談することが重要です。彼らは、デジタル資産に関する相続手続きをスムーズに進めるためのサポートを提供し、遺族が混乱に陥らないようにアドバイスを行います。
  • 暗号資産管理ツールの利用
    最近では、暗号資産の相続をスムーズに進めるためのツールやサービスも登場しています。これらのツールを利用することで、万が一の際に遺族が秘密鍵やアクセス情報を取得できるように設定できます。また、暗号資産を信託の一部として管理することも可能です。

4. 事例紹介:デジタル資産を適切に管理したAさんのケース

Aさんは、自身が保有する暗号資産やデジタル証券を、事前に行政書士と相談し、詳細なリストを作成しました。さらに、信頼できる家族にアクセス情報を伝え、万が一の際には相続がスムーズに進むよう手配をしていました。Aさんが亡くなった後、遺族はすぐにそのリストを元に資産の存在を確認し、スムーズに手続きを進めることができました。

このように、事前の準備がしっかりと行われていれば、デジタル資産の相続も問題なく進行できることがわかります。

5. デジタル資産相続の未来 – 今後の展望

デジタル証券や暗号資産の相続は、今後ますます一般的になることが予想されます。そのため、相続手続きにおいてもこれらの財産を適切に扱うための法整備が進むでしょう。また、証券会社や金融機関も、デジタル化された証券の相続手続きを簡略化するためのシステムを導入していく可能性があります。

一方で、個人としてもデジタル資産の管理方法や相続に対する意識を高める必要があります。専門家と相談しながら、確実な相続計画を立てることが、トラブルを回避するための鍵となるでしょう。

まとめ: デジタル資産を確実に遺族へ引き継ぐために

デジタル証券や暗号資産の相続には、多くの課題が伴いますが、事前の準備と専門家のサポートがあれば、スムーズに手続きを進めることが可能です。見えない財産が存在する時代だからこそ、資産管理の方法を見直し、デジタル資産を確実に遺族に引き継ぐための対策を講じましょう。

デジタル化された証券や暗号資産の相続に不安がある方は、ぜひ行政書士に相談して、しっかりとした相続計画を立てることをおすすめします。